乳化:ビーズレスミル、連続乳化、乾式混合について
乳化技術一般論
[乳化(エマルション)とは?]
互いにまざりあわない二つの液体の一方がもう一方の液相に微細な液滴として分散した系を乳化(エマルション)といい、化粧品、医薬品をはじめ食品、農薬や化学品などのあらゆる分野で活用されている技術です。エマルションには、大きく分けて水中に油滴が分散した水中油滴分散型エマルション(O/W:oil in water)と油中に水滴が分散した油中水滴分散型エマルション(W/O: water in oil)があります。
水中油滴分散型エマルション(O/W) |
油中水滴分散型エマルション(W/O) |
以下に身近な水中油滴分散型エマルション:O/W型と油中水滴分散型エマルション:W/O型の製品例と特徴を以下の表に示します。このように、生活に密着した身近な製品を製造する技術として乳化が活用されています。
表 O/W型とW/O型エマルションの製品例と特徴 |
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水中油滴分散型エマルション |
油中水滴分散型エマルション |
製品例 |
化粧品乳液・クリーム |
バター、マーガリン |
特徴 |
・ 導電性有り |
・ 導電性無し |
[エマルションの調整方法~界面活性剤~]
微細化されたエマルションの液滴は界面の表面積が著しく不安定な状態で、エマルション同士の接触により液滴の結合(合一)やエマルション粒子の浮上(クリーミング)といった乳化物の劣化が進行します。このような乳化物の劣化防止を目的として、親水基と親油基を持つ界面活性剤(乳化剤)を添加し、界面表面に膜を形成する事でエマルションを安定化する事が可能になります。
また、界面活性剤を使用した乳化は、界面活性剤の加温溶解が必要な場合や処理時又は処理後の温度が乳化の安定性に影響を及ぼす場合があるため、エマルションの製造時には温度管理が重要な因子となります。
図 界面活性剤とエマルションの形成イメージ
乳化装置一般論
エマルションを製造する方法は、機械的な撹拌力を用いて液滴にせん断力を与え、分散する方法が工業的に主流となっています。エマルションの製造に用いられる装置は、ホモミキサーに代表される高速撹拌機や超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなど多様な乳化機が提案されています。以下に代表的な乳化装置の紹介と、それぞれの特徴を示します。
[回転撹拌型乳化機]
回転軸と撹拌用冶具(撹拌翼、タービンなど)を組み合わせた汎用的な機械撹拌技術を応用した乳化装置であり、プロペラミキサー、ホモミキサー、ディスパーなどが挙げられます。回転撹拌型の構造部を持ち、一般的なエマルション製造に用いられる乳化釜は、タンクと攪拌機が一体となったバッチ式の装置が主流となっており、連続処理プロセス化が困難と言われています。
[超音波ホモジナイザー]
超音波により発生するキャビテーションを利用してエマルション化を促進する方法です。超音波を利用した方法は、槽内にムラを生じ易く、均一なせん断力を与える事が困難である事や大量の液体処理が必要な生産機へのスケールアップが困難と言われています。
[高圧ホモジナイザー]
高圧ポンプで細い流路に通液する方法や、液同士を対向衝突する方法で液体にせん断力を与える方法です。乳化力は高く液滴の微細化に適していますが、供給する液体を100MPa以上の高圧に加圧するための付帯装置が必要であり、維持管理には高い技術力が必要となります。
図 エマルション製造に用いられる代表的な装置例
『アペックスディスパーサーZERO』の概要
『アペックスディスパーサーZERO』は、特殊なローター表面形状を持つ回転撹拌型の乳化装置であり、ローターとステーターの間で発生する相対速度差により、強力なせん断力を与える事が出来るビーズレス分散・乳化・混合機です。
[構造概要]
本装置は、高速回転するローターと固定されたステーターで構成され、ローターとステーター間には狭小のせん断隙間部を有しています。流体はローターの高速回転により発生する極めて高いせん断力を受け、分散・乳化・混合等の処理が行われます。更に本装置は、流体が必ずローターとステーターの狭小のせん断隙間部を通過する構造であるため、1パス処理でも均質なせん断力を与える事ができます。
『アペックスディスパーサーZERO』の特徴
(1) 1パス処理でも均質なエマルション製造が可能です
『アペックスディスパーサーZERO』は、機内に供給された全ての流体が同質のせん断力(強度及び滞留時間)を受ける構造のため、1パスでも均質なエマルション製造が可能となり、処理の短時間化・装置の小型化を実現可能です。特に高粘性流体では流体が受けるせん断力にムラが発生し易いバッチ式の乳化釜と比較して、本装置は均質なエマルション製造に有利な構造です。
[実施例]
下図に試験機(ZERO-7型)の1パス処理時における処理流量と液滴径の関係を示します。処理流量を変えることにより1パス連続処理においてもミクロンレベルの液滴径をコントロールすることができます。なお、市販されている乳液は数μmレベルのエマルションであり、本装置を用いた場合においても同等レベルのエマルションを連続製造可能である事を示唆します。
図 1パス処理における処理流量と液滴径の関係
※ 図中に示す50%液滴径、90%液滴径は、液滴径分布に示される積算値の50%及び90%となる液滴径を示します。50%液滴径はメディアン径とも呼ばれ、液滴の量が中間となる液滴径を示します。
(2) 部品交換を行う事なく、様々な物性(粘度及び液滴径)の乳液を製造可能です
本装置は部品交換を行う事なく運転条件の変更のみで、多彩な原料への対応や色々な品種の商品の製造が可能です。例えば、低粘度から最大40,000mPa・s※1の高粘性乳液・クリームの製造が可能です。また、ローターの回転速度や供給量を調整する事で、数μmから250nmの液滴径の乳液・クリームを製造可能です。
部品交換を行う事なく、異なる物性の乳液の製造に活用可能であるため、多品種・小ロット生産に加え、研究室での新商品開発に最適です。 ※1 コーンプレート型粘度計による計測
[実施例]
下図に、ZERO-7型の循環運転における回転速度と液滴径の関係を示します。回転速度を変えることにより数μmから250nmの範囲で任意のエマルション径へのコントロールが可能です。また高回転速度で製造した小さなエマルションは、油滴の浮上(クリーミング)の抑制に有利であり、乳液の安定性の向上に寄与します。
図 循環運転における周速と液滴径の関係(流量:20L/hr)
(3) 処理目的に応じた最適な運転方式の選択が可能です
本装置は、乳化処理の目的に応じて最適な運転方式の選択ができます。以下に、① 二液及び三液供給方式、② 1パス連続処理方式、③ 循環運転方式の3種類の運転方式の特徴を示します。
① 二液及び三液供給方式
本装置は水相原料と油相原料を直接機内へ供給し、直接乳化処理を行う二液及び三液供給方式を採用する事が可能です。二液及び三液供給方式は、プレミックスを行う事なく乳化釜と同等の品質の製品を製造可能であり、前処理工程を省略したシンプルな工程を構築する事ができます。
また、タンク加温設備や撹拌機、供給ポンプなどの様々な付帯設備を組み合わせる事により、御要望に応じた原料加温・撹拌から乳化までの生産プロセスの簡略化が可能です。
② 1パス連続処理方式
機内に供給された全ての液体は、全量均質なせん断力を受ける構造であるため、1パス連続処理方式でも均質なエマルションの製造が可能です。市販の乳液と同等のミクロンレベルの乳化物の連続生産が可能であり、小型の装置を用いた場合でも循環運転方式と比較して大量の乳液を生産する事が可能となる運転方式です。
また、1パス連続処理方式は、充填機などの後段工程との連結が可能であり、煩雑な操作を伴わないシンプルなプロセスや異物の混入を予防するプロセスの構築に最適な運転方式です。
③ 循環運転方式
循環運転方式では、1パス連続運転方式より微小な数百nmの液滴径のエマルションを製造できます。ローターの回転速度や処理の時間を調整する事で液滴径のコントロールが可能であり、1台で多品種の製品の生産に活用できます。
また、ステーターに供給する冷却水を温水(60~80℃)に変更する事で、容易に機内を加温環境とする事が可能であり、温水流量やローター回転数の調整を組み合わせる事で、任意の加温条件下での乳化処理を実現できます。更に、ステーターに供給する温水を冷却水に切り替える事で、乳化処理後の冷却を行う事が可能であり、段階的な加温・冷却の工程を1台で構築できます。
循環運転方式は、乳化処理の再現性が高く、ローターの回転数や処理の時間をパラメーターとした乳化処理の進行度を確認しやすい運転方式のため、処方に適した処理条件を容易に構築できます。
(4) 分解・洗浄性が良好です
機内を構成する主要部品の部品点数が少なく、またシンプルな構造であるため、簡単に分解及び洗浄が可能です。 また、そのシンプルな構造は浸置き洗浄や無分解でのCIP(定置洗浄)への適用性が高く、装置を容易に清潔に維持する事ができます。
化粧品や食品などの清潔さを要する製品の製造においては、本装置の良好な洗浄性が有効であり、日々の分解及び洗浄の含めた運用を容易化できます。
(5) 乳化・混合・分散の研究・開発用途に最適です
本装置はシンプルな構造でありながらも、運転条件の変更のみで様々な製品の製造に活用できます。また小型の装置を用いる事で、それぞれの乳化処方に適した運転条件を簡単に構築する事が可能であり、1台で多品種の商品開発を促進する事が可能です。また、本装置はシンプルな構造のため、小型の装置で構築した運転条件を元に、スムーズに生産機へスケールアップする事ができます。
更に本装置は、乳化処理だけではなく『低ダメージでの分散』、『各種材料の混合』、『ファイバー状物質の均一混合』といった多用途に用いる事が出来るため、様々な原料を用いる研究・開発用途に最適です。
[参考資料]
1) 現代界面コロイド化学の基礎 日本化学会
2) エマルション調整技術 事例集 技術情報協会
3) 新化粧品学 第2版 南山堂