技術講座(ろ過・濃縮・洗浄)
ろ過:ろ過装置、ろ過の原理、ロータリーフィルター、密閉・連続式ろ過機、粉体洗浄について
一般的なろ過
スラリー※1)をろ材(フィルター)※2)によって固体と液体に分離する操作をろ過といいます。ろ過はろ材表面を加圧、又は、ろ材表面の逆方向から吸引する事で進行し、ろ材表面に形成されたケーキ層(粒子層)によって粒子が捕捉され、清澄なろ液(液体)が分離されます。ろ過操作は化学業界をはじめ、素材、機械材料、電子材料、環境業界の幅広い分野において重要な操作です。
一般的な加圧(吸引)ろ過装置では、図1に示した様に、ろ過が進行するとろ材表面に形成されるケーキ層の厚みが増します。この時、ケーキ層を通る液の抵抗が増加する為、ろ過速度は急激に低下します。低下したろ過速度を回復させるには、装置を分解してケーキ層を掻き出す、又は、スクレーパー等で削り取る必要があります。
図1 一般的な加圧(吸引)ろ過
※1)液体中に固体粒子が懸濁したもの
※2)ろ布、ろ紙、金網、膜 等が広く使われます
ロータリーフィルター及びセラミックロータリーフィルターによるろ過
一般的なろ過では、ケーキ層の堆積が進行し、ろ過速度が低下します。一方、当社のロータリーフィルター及びセラミックロータリーフィルターでは、ろ材近傍を強力に攪拌するユニークな手法を用いて、ケーキ層の堆積を抑制し、長時間にわたり高いろ過速度を維持します。
(1)原理
図2に示した様に、ろ材表面のケーキ層厚を薄く、且つ、一定にする為に、攪拌板やフィルターの回転により、ろ材と平行方向に液を高速流動させます。ケーキ層の成長を最小限に抑えることが可能で、長時間にわたって1mm~数mmの薄いケーキ層厚を維持し、安定した高速ろ過が可能となります。
図2 ロータリーフィルターのろ過原理
(2)構造
■ ロータリーフィルター (RF)
ロータリーフィルターは、サブミクロンから100ミクロンの微粒子の捕捉を対象とします。構造を図3に示しました。完全密閉構造のろ過室内にろ過板と攪拌板を狭い間隔で交互に配列し、攪拌板はろ過運転中に常時回転します。原料スラリーはろ過室の一方から加圧供給され、ろ過板を縫って移動する間にろ過され、ろ過室の他方に設けた排出弁から濃縮液や脱水ケーキが排出されます。
図3 ロータリーフィルターのろ過室構造
■ セラミックロータリーフィルター (CRF)
セラミックロータリーフィルターは、ナノ粒子からサブミクロンの超微粒子の捕捉を対象とします。構造を図4に示しました。完全密閉構造のろ過室内で、シャフトに取り付けられたセラミックフィルターが高速で回転します。原料スラリーは供給口から加圧供給され、フィルターを通過したろ液は中空構造のシャフトを通り外部に排出されます。
図4 セラミックロータリーフィルターのろ過室
(3)特長
■ ロータリーフィルター (RF)
① サブミクロンまでの粒子を長時間高速ろ過
ろ材表面の乱流がケーキ層厚を薄い状態で安定させる為、数ミクロンからサブミクロンまでの粒子に対し、数日から数ヶ月の間、高いろ過速度を維持します。
② スラリー中溶解塩の洗浄除去に最適
ろ過速度が高い為、不純物の排出速度が速く、且つ、粒子を分散した状態で循環洗浄を実施できる為、短時間で高い洗浄度を達成出来ます。
③ 濃度が均一で流動性のあるケーキを連続排出
ケーキを排出するのに、ろ過室の分解が一切必要なく、ラインを密閉状態に保ちます。ケーキに流動性があるので、後工程(乾燥等)へのハンドリングが良好です。
■ セラミックロータリーフィルター (CRF)
① ナノ粒子を完全捕捉しろ液が清澄
孔径 7nm~2μm の超微細孔セラミックフィルターにより従来技術では困難であったナノサイズの粒子を完全に捕捉します。清澄なろ液を連続的に回収出来ます。
セラミックフィルターのラインナップ |
||||||
孔径 |
2.0μm |
0.5μm |
0.2μm |
60nm |
30nm |
7nm |
材質 |
Al2O3 |
Al2O3 |
Al2O3 |
Al2O3 ZrO2 |
TiO2 |
MgAl2O4 |
② 目詰まりしやすいスラリーのろ過に最適
粒子径よりもフィルター孔径が非常に小さい為、ろ布や金網では目詰まりしやすい微粒子スラリーやケーキ層を形成しにくい希薄スラリーに対し、フィルターの目詰まりを低減します。
③ ナノ粒子スラリーでも高速ろ過を安定化
高速回転するセラミックフィルターがケーキ層厚を薄い状態で安定させる為、一般的な加圧ろ過では、ろ過速度が非常に低いナノ粒子スラリーでも安定した高速ろ過が出来ます。
■ RF、CRF共通の特長
① プロセスの自動化で品質管理を容易にし、生産コストを削減
スラリーの洗浄度、濃縮・脱水度を数値化し、製造プロセスを自動制御することで品質管理が容易です。ろ過処理後の機械洗浄も自動で行います。歩留りが向上し、人手も掛からない為、生産コストを削減出来ます。
② 完全密閉処理で、作業環境をクリーン化
ろ過処理、製品回収、機械洗浄の際、ろ過室の分解が一切必要ない為、全ての処理を完全密閉化した状態で行います。作業環境をクリーン化と共に、清掃作業が無くなり、コスト低減に寄与します。スラリーの飛散や臭気の拡散、有害物質の曝露を防止出来ます。
応用例
図5にロータリーフィルター及びセラミックロータリーフィルターによる洗浄、濃縮・脱水操作のプロセスフローを示しました。各操作は組合わせて処理する事も可能で、原料スラリーを洗浄した後、濃縮・脱水して回収も出来ます。
■ ロータリーフィルター (RF) |
■ セラミックロータリーフィルター (CRF) |
図5 洗浄、濃縮・脱水操作のプロセスフロー
(1)洗浄操作
材料の製造プロセスにおいて、原料スラリーは様々な処理剤の添加や反応を経て、不純物が液中に溶解した状態で生成される場合があります。材料の高品質化では、スラリー中に溶解した不純物を除去する操作が非常に重要です。そこで、ろ過操作によって、溶解した不純物を洗浄・除去する方法が広く利用されています。
一般的な加圧ろ過では、図6に示した様に、先ず、原料スラリーを加圧ろ過し、ろ材表面にケーキ層を形成させます。その後、ケーキ層に洗浄水を添加、通水する事で不純物を洗い流します。しかし、粒子が圧密された状態で洗浄を行う為、洗浄ムラが生じます。また、ろ過速度が低いので洗浄に時間が掛かります。
図6 一般的な加圧ろ過による洗浄方法(通水洗浄)
一方、ロータリーフィルター及びセラミックロータリーフィルターは、図5に示した様に、原料スラリーを循環しながらろ過を行い、ろ液の排出量に応じて洗浄水を添加し、母液を希釈して溶解塩濃度を下げます。(循環洗浄)
粒子が分散された状態で洗浄を行うので均一に洗浄されます。また、ろ過速度が高いので短時間で処理出来ます。
図7に炭酸カルシウムスラリー中に溶解した塩化ナトリウムの洗浄実施例を示しました。
一般的なバッチ式の加圧ろ過と比較して、ロータリーフィルターでは約1/3の洗浄時間で塩化ナトリウム濃度が減少しました。
図7 洗浄時間と炭酸カルシウムスラリー中NaCl濃度の関係
その他、以下の様な洗浄事例があります。
洗浄事例 |
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業界分類 |
固形物 |
不純物 |
洗浄度 |
磁性材 |
Fe2O3 |
Cl |
Cl- 10% → <0.1% |
〃 |
〃 |
H2SO4 |
pH <1 → 4.5 |
〃 |
〃 |
NaOH |
pH 12.4 → <9 |
ファインセラミック |
ZrO2 |
Cl |
Cl- 3.4% → <0.5% |
光学材 |
SiO2 |
Cl |
Cl- 1000ppm → <10ppm |
建材 |
Ca3(PO4)2 |
NH4Cl |
pH 9 → 7.6 |
光触媒 |
TiO2 |
NH4Cl |
Cl- 32g/L → <1g/L |
化成品 |
Al(OH)3 |
NH4Cl |
Cl- 2% → 0.01% |
電解箔 |
Cu |
HCl |
pH 0.78 → 4 |
塗料 |
顔料 |
NaCl |
Cl- 10% → 2% |
(2)濃縮・脱水操作
一般的な加圧ろ過では、スラリーを脱水後にろ過室を分解し、ケーキを掻き出して回収する必要があります。
一方、ロータリーフィルターでは、原料スラリーをろ過し、ろ過室内部に固形分を溜めます。固形分の滞留状態を自動検知し、ケーキ排出バルブを操作する事で、所定濃度に脱水されたケーキを自動排出します。この様な自動排出機構により、クリーム状で流動性のあるケーキを連続的に回収出来ます。
セラミックロータリーフィルターでは、原料スラリーを循環しながらろ過を行い、循環タンク内の固形分濃度を徐々に上昇させる事で液状の濃縮液を回収出来ます。
いずれも、処理後のケーキや濃縮液の回収にろ過室を分解する必要がありませんので完全密閉化、運転の無人化・自動化が可能です。
濃縮・脱水事例 |
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業界分類 |
固形物 |
ケーキの固形分濃度 |
磁性材 |
酸化鉄 ・ フェライト |
60~70 |
光触媒、MLCC |
チタン系 |
40~60 |
ファインセラミック |
セラミック |
30~70 |
建材、食品添加物 |
カルシウム系 |
25~50 |
鉱工業 |
マグネシウム系 |
25~30 |
研磨剤、難燃材 |
アルミニウム系 |
15~20 |
塗料 |
顔料 ・ 染料 |
25~30 |
原子力設備 |
活性炭 |
35~40 |
塗料、コーティング材 |
樹脂 |
20~25 |
二次電池 |
正極材料 |
60~70 |
(3)ナノ粒子のろ過操作
セラミックロータリーフィルターでは、従来のろ布によるろ過では困難であったナノ粒子を完全に捕捉出来ます。
図8にナノサイズの酸化チタンスラリーのろ過実施例を示しました。
フィルターを無回転でろ過した場合と比較して、フィルターを1000min-1で回転することによって、ろ過速度は約20倍に高くなりました。超微細孔のセラミックフィルターを使用する事でナノサイズの粒子も完全に捕捉でき、ろ過後のろ液は清澄となりました。
運転時間とろ過速度の関係 |
ろ過後のろ液清澄性確認 |
図8 酸化チタンナノ粒子のろ過実施例
仕様及び採用例
機 種 |
ロータリーフィルター |
セラミックロータリーフィルター |
適用粒子 |
微 粒 子 |
超 微 粒 子 |
サブミクロン ~ 100μm |
ナノ ~ サブミクロン |
|
処理内容 |
洗浄、濃縮、脱水 |
洗浄、濃縮 |
ろ 材 |
ろ布 |
セラミックフィルター |
ろ過速度※1) |
200~2000 L/m2hr |
20~500 L/m2hr |
ろ過室 |
SUS304 |
SUS304 |
採 用 例 |
1.電子部品材料(MLCC、磁性体 等) |
1.機能性材料(無機ナノ粒子) |
※1)ろ過速度は、ろ過面積あたりのろ液排出量です。
※2)材質はSUS304の他、SUS316、SUS316L、チタン、ポリプロピレン(耐酸仕様)等、液性状に合わせて製作致します。
(参考文献)
1. 院去貢,“ろ過、遠心分離の経験を生かし開発したナノ粒子分散装置の紹介と応用例”濾過分離シンポジウム2009,巻数,101-108(2009)
2. 徳永裕介,院去貢,“超精密濾過機 Ceramic Rotary Filter (CRF)の開発” 濾過分離シンポジウム2009,巻数,139-142(2009)
3. 徳永裕介,“密閉型自動連続加圧ろ過機 Rotary Filterの応用” 濾過分離シンポジウム2013,巻数,52-56(2013)
4. 徳永裕介他,濾過スケールアップの正しい進め方と成功事例集,第5章 1-6(2014)